天涯孤独の少女を救ったお話。 前編
颯司side
これは、俺がまだ中学1年生だった頃の話。
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「颯司、迎えが来てるよ」
「はい」
ああ、コンクール、楽しかった。
まさかこんなに遅くなるとは思わなかったけど。
1年生なのにコンクールに出させてもらえるとも、思ってなかった。
先生は迎えが来てるって言ってたけど・・・
誰が来てるんだろう?
in学校の駐車場
「やっと来たわね。遅いわよ、颯司」
「ね、姉様・・・!?」
「何をそんなに驚いているのかしら。」
「い、いや、だって・・・!」
いつもあんなに派手な姉様が、凄く・・・
地味!
いつもくるっくるなロングヘアーはストレートになってるし、服装もドレスじゃないし扇も持ってないし・・・
「全く、話は後で聞くわ。車を来させているから早く乗りなさいな。」
「あ、車あるんだ・・・」
「当然でしょう?私がこんな田舎まで護衛も無しにバスや電車で来るとでも?」
「うっ・・・」
それを言われたら何も言い返せないから困るんだけど・・・
まあいいや、車乗っちゃおう。
誰も・・・
居ないね。
ならウィッグとカラコンも取れるかな。
-帰宅中-
in車内
取り敢えず荷物を置いて、ウィッグとカラコンを外す。
すると姉様が話し掛けてきた。
「それで?さっきは何故あんなに驚いていたの?」
「いや、だって・・・姉様いつも詩乃薔薇の事を田舎だなんだって言って嫌ってるから、まさか迎えに来るなんて思わなくて」
「私だって、貴方がコンクールメンバーでなかったら執事に任せて家に居たわ。」
姉様は俺とは全然違う黒い髪を弄りながらそう言った。
・・・ん?
って事は
「俺がコンクールメンバーだからってわざわざこんな処まで!?」
「少し驚いた位で大きな声を上げないでちょうだい、はしたない。」
「あっごっ御免」
「・・・はぁ。ええ、そうよ。今年入部したばかりにも関わらずコンクールメンバーに選ばれるなんてとても名誉な事だもの。ふふっ」
姉様、こんな優しく笑えるんだ・・・
そういえば、見に来るって言ってたな。
何処に居たんだろう。
「顧問の先生から聞いたわ。銅賞だったんですってね。」
「・・・うん」
「落ち込む事は無いわ。最前列で聴いていたけれど、貴方のチューバはとても良い音だったわよ。他の部員の実力が貴方に追いついていなかっただけ。来年、他の部員達を鍛え直して、今度は金賞を取りなさいな。」
「姉様・・・有難う。というか最前列で聴いてたんだね・・・全然解らなかった」
俺がそう言うと同時に、車が止まる。
信号が赤になったらしい。
「ああ、いつもの私と全く違うから気付かなかったのでしょうね・・・あら?」
「ん?どうしたの?」
「・・・」
「ちょ、ちょっと、姉様?何で窓の外なんて見て・・・ねぇ・・・」
駄目だ、全く返事してくれない。
窓の外に何があるっていうの?
というかもう車走り出しちゃったけど・・・
「ちょっと、姉様・・・」
「・・・車。1回止めてちょうだい」
「は、しかし・・・」
「いいから止めなさい!」
わっ、また揺れた。
ていうか何?
取り敢えず姉様についていけば解るかな・・・
というか此処って・・・公園?
in公園
「姉様、何・・・あっ」
あれ、女の子かな。
こんな遅くに1人で・・・
泣いてる?
「少しいいかしら。」
「・・・誰?」
「私は珠洲河 颯姫。小さな女の子が1人で居たものだから、つい気になって来てしまったの。それで、こっちが私の弟の颯司よ。」
「・・・そうなんだ。」
「それで、貴方はどうしてこんな処に居たの?もう遅いのだから、早く帰らないとご両親も心配するわよ?」
「・・・居ないの」
「え?」
親が居ない?
どういう事?
「さっき、さっきね、お母さん、お父さんと手繋いで、2階の、2階のベランダから、うぅ・・・!」
・・・は?
「心、中・・・?」
「義務教育すら終わっていない子供を残して心中だなんて・・・親戚の方とかはいらっしゃらないの?」
「居ない・・・」
「・・・そう。」
「姉様、この子どうするの?流石に此処に置いていく訳にもいかないよね?」
「家に招き入れましょう。それと、1つ訊いていいかしら。」
「何?」
「貴方にじゃないわよ・・・そこの、あー、名前はなんて言うの?」
「秋、秋雲、ユラ・・・」
ユラ・・・ね。
「どうして貴方はこんな事も出来ないの!貴方なんか産まなければ良かった!」
「っ・・・!」
「あー・・・秋、と呼びましょうか。それで、秋。貴方の御両親が飛び降りたのはさっき、だと言ったわよね?」
「うん・・・」
「なら遺体が残っている筈だわ。それだけ回収しに行きましょう」
死体の回収って・・・
「まさか秋ちゃん連れて、とか言わないよね?」
「・・・本当なら、連れていった方が良いのでしょうけど。車で待っていてもらいましょうか。秋、貴方の家は何処?」
「・・・あっちの方」
「解ったわ。取り敢えず車に乗ってもらえるかしら。貴方の家まで行くわ」
「了解。」
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こうして俺達は、ユラちゃんの家まで向かった。